座談会

”全体”

主催:研究推進・知的財産センター
   研究開発科委員会

日時:平成28年7月15日

場所:青森県立保健大学 管理・図書館棟会議室


平成28年7月15日に、今年度、日本学術振興会の科学研究費助成事業にて採択された6人の先生方をお招きして、応募した動機や科研費を通した研究への思いなどの意見交換を行いました。そのときの座談会の内容をご紹介します。

 

目次

 

1.参加者のご紹介と科研費への応募の動機

 

”佐藤センター長”

(佐藤)みなさん、こんにちは。今日はお集まりいただきまして、ありがとうございます。こういう試みは、初めてなのですが、今後につながればと思い、お話していただきます。先ずは、学長の上泉先生からお願いします。


”上泉学長”

(上泉)今日お話ししたいのは、大学としての研究に対しての役割と、もう一つ教員としての研究に対する役割と、この二つについて話したいと思います。 一つは大学として、研究についてどんなふうに捉えているのかということ。本学は、公立大学であって、地域に貢献するということが非常に大きな役割として課されていると思います。地域に貢献するというのはどういうことかと考えますと、本学は、青森県内の公立大学として、また、保健医療福祉の分野の大学として、大学院をもっている数少ない大学です。研究を通して新しい知見を得て、それを地域に還元していくという意味で、本学の研究を通しての地域貢献への役割は非常に大きいと思っております。もう一つ大学教員として、研究に対してどんな役割があるかということですが、大学教員として昇進したり、採用されたりというときに研究業績が問われているという状況の中で、教員としては、大学のファカルティとしては、教育と研究という二つが大変大事な役割ではないかなと思っております。ただ、自分自身のキャリアコースの中で、今は、なかなか研究に時間を割けないといったようなところもあるかもしれませんし、また教育に時間を割いていきたいというような状況のこともあるかもしれません。ただ、役割そのものがなくなるわけではありませんので、ぜひ自分のキャリアアップ、キャリアコースを踏まえた上で教育にも研究にも携わっていってほしいと思っております。
 私は、大学院に入る前、臨床の現場にいた時に、大学の先生たちと一緒に研究をする機会がありました。そこでは、研究をすることでデータが生き生きと語ってくるという経験をして、なんて研究ということがすばらしい、大事なことなんだと感じました。そういうことを教員の皆さんにもぜひ、研究を通して新しいものを探求していくことのわくわくした感じを感じてほしいです。研究というと研究方法論を学んで、卒業論文を書かなければならないということもありますが、やっぱり新しいものを目にしていくときのドキドキ感やわくわく感をぜひ学生にも伝えていってほしいなと思います。


(佐藤)どうもありがとうございました。それでは、わくわく感を持ってすすめていこうかと思います。その前に私、言い忘れました。まずは科研費獲得、おめでとうございます。(笑い)それでは、時間の許す限り、進めて参りたいと思います。私は、本日のファシリテータを務めさせていただく、研究推進・知的財産センター長の佐藤と申します。どうぞ、よろしく、お願いいたします。
 皆さんに自己紹介していただいて、科研費を取るにあたっての苦労話や採択されたときの喜びなどをお話しいただきたいと思います。それと、この科研費をもって自分は将来どういうふうに使っていこうかあるいは使ったその先には何があるのかを含めて、理想や夢を語っていただければと思います。

”渡部教授”

(渡部)では、私から、ご指名いただきましたので。ちょうど参加順のトップに私の名前がありまして、一応覚悟はしておりました。(笑い)
 私、前任地、北海道大学でした。本学では研究費として50万くらいありますよね。北海道大学は年間で5万円くらいです。教授になると9万円くらい。研究費は外部資金しかないと思って、みんな、外れても、外れても毎年全員が科研費に出すというシステムができていました。私も続けてずっと応募していまして、お陰様でかなりの確率で当たっていて、外れた時は、共同研究者が当たったりしているので、継続してできています。テーマはいつも変わっています。今回のテーマは、昔は、足の切断というのは、交通事故が原因の半数以上だったんですが、この10年くらいでは糖尿病で足を切る人が半分以上なんですね。事故で切る人は一箇所切ってそのまま帰ることができるのですが、糖尿病の人はまず、足の親指が腐って、片方だけでも5回切るとか三か月ごとに入院するとか、反対の足もありますから10回以上切って入院してリハビリしている人、たくさん目にしてきました。何が悪いんだろうと思うと、糖尿病のコントロールなんですね。そのあと、手術して、リハビリをしてもらいますが、その時にちょっと無理してるんじゃないかと思うこともあります。無理すると血圧上がって、血管しまって血流悪くなっちゃいますからね。筋肉に血流が行き、皮膚に血流が行かなくなる、つまり、盗血現象、スティール現象ということになります。ほどほどの有酸素運動をするということで、血流がよくなるのですが、足だけでは消費カロリーを稼げないので、手を使うとか、杖を持つとか、車椅子こぐとか、さらにノルディックウォークのような運動をすることによって、メッツがあがりますから、有酸素運動を促すためにも「手を使いましょう」という感じで進むのが今回の採択された研究の主な目的です。
 昨年は、採択されなかったのですが、本学の特別研究費を活用して、一つ二つデータ出して、去年の10月のうちに日本語ですけれども投稿して原著に載りました。この10月に応募した時に原著論文に掲載されたことが有利に働いて採用されたと思います。研究面では貢献しようと思って頑張っているところでありますので、引き続き頑張るつもりです。


”福井准教授”

(福井)私は、大学に着任した時に初めて研究というものをやらなきゃいけない責務というものを感じました。最初は、研究がしたくてやったというわけではなかったのです。あるとき、訪問看護師さんを対象にした研修会の講師をさせていただく機会があり、そこで同じような処置なのに在宅になるとあまり感染に気を付けた処置じゃないということに疑問を抱きました。研究しなきゃいけないのであればそこを追求したいなと、始めました。ちょうどそのときに本学でピアレビューのシステムが確立されたときで、当時、本学にいらした川村佐和子先生に、ピアレビューや指導をしていただきました。そのとき、初めての科研費に採択されたのです。
 そこから研究を始めていくと、だんだん疑問が出てきました。感染って無菌操作とかいうことだけじゃなくて、すごく幅広いんですよね。針刺しのこととか、かかりつけ医と訪問看護師の関係性とかさまざまなことが出てきました。どんどん自分の中でテーマが出てきて、それに取り組むことの楽しさというか、わくわく感というお話をくださいましたが、現状は、こうなんだっていうことがわかって、楽しくなってきました。あとはそれを研究するにあたって、いろんな研究者に声をかけて、共同研究者になってもらったときにいろんな考え方を教えてもらうことも多くて、ますますおもしろくなっていきました。
 先程、渡部先生から、原著論文が受理されたというお話がありましたが、私は研究にとりかかるのは結構好きでやるのですが、それをまとめるのになかなか時間的余裕がないとうか、・・・時間は作ればいいんでしょうけれども、次の研究に入っていきたいっていう気持ちが大きいです。そこのところが問題なのかなとは思っています。科研費は報告書を作成しますが、最近は、そこが容易になったと思うので、それも一つの魅力かなと思います。
 いつも科研費が100%採択され、自分も審査委員になっている先生が、科研費の取り方について、簡単にどうすればとれるのかについておっしゃっていました。まずは、根性があるかということと、そして、書き方のルールを守っているかということだそうです。科研費の研究計画のフォームのところに小さな文字で書いているところがあるんですよね。そういうことをきちんと守って書いているのか、その二点についてお話されていました。「根性があるか」っていうのは含みがあるなとは思いました。どれだけ情熱を持って自分で実現可能な内容で計画を立てているかというところを見ているのかなと思いました。


”小池講師”

(小池)看護学科の小池です。よろしくお願いします。研究の方は、採血部位のことに関して行なっています。科研費を獲得したのはようやく2回目になります。1年目から4年目までは全然とれなくて、ちょっと違う分野で研究をやっていたのですが、その分野だと科研費は取れないなと思いました。自分がよく行く学会で、その分野で他の大学の先生に勝てないなと思って分野を鞍替えしました。

(佐藤)最初は、どこの分野だったのですか?

(小池)最初は、身体を拭くことがすごく好きで・・・(笑い)・・・清拭分野の研究をしていました。新しい分野をどうしようかなと思っていました。身体を拭くことは得意だったんですが、次に得意なのは何かなと思ったら、看護師として働いていた時に採血するのが得意だったと思ったのです。この分野のテーマに変えたら、科研費に採択されました。研究の必要性っていうのは、テーマによってもあると思うし、新しい分野を自分で開拓すれば取れやすいのかなと感じました。たまたま過去の文献等調べても全く行なわれていなかった分野なので、それにプラスして必要性が認められれば当たりやすいという感じはしています。
 科研費を獲得するにあたって、なぜ、応募したのかと問われますと、大学に入ったときに上司から科研費に出すこと自体が仕事だからって言われて、何の疑問もなく出していました。上司の先生に出すのが普通だよって言われて・・・。(笑い)普通に、毎年、毎年、毎年出してやっとという感じでした。

”熊谷助教”

(熊谷)栄養学科の熊谷です。私は、かなり長く応募し続けて、ずっと落ち続けて、学科の先生にもまだですかって言われました。(笑い)教員評価も下がりましたが(笑い)今回、獲得できて、とりあえず、認められたかなと思っています。
 私が、初めて科研費に応募したのは、本学の大学院に入学した時(※当時、助手としても採用)に指導教員の藤田修三先生から、「権利があるのだから、必ず科研費に出しなさい。」と言われ、大学院の1年生のときから科研費に応募していました。今回、初めて採択されたのですが、それまでは採択されるまで毎年応募し続けてきました。不採択の理由にはいろいろあると思います。採択の経験がある先生方に直接、どうして獲得できたのですかといろいろ聞くと、研究業績のこと、書き方のことなどいろいろ伺いました。弘前大学の大学院に在学中も、科研費獲得の資料をもらい、自分なりにどうすればいいんだろうと考えてやってきました。ほかの先生のフォーマットを直しているうちにその先生が採択されて、自分のは不採択(笑い)・・・という不思議な現象がおきました。そこから書き方、見せ方は悪くないということに気が付きました。その間2年間くらいは、とにかく論文を出して研究業績を増やしました。栄養の分野でずっと応募していたのですが、やはり採択されませんでした。今回、地域診断の視点から、メタボとロコモといういろんな県で研究・調査されている内容ですが、医学系の社会医学の分野で応募したら採択されました。
 私は、青森県の栄養の歴史とかも調べるのが好きで、昭和、戦後からずっと管理栄養士、栄養士がどうしてきたかを調べていると、例えば30年くらい前でちょうど青森県の食塩摂取量などの研究が止まっているというのがわかりました。そこからメタボとロコモのことに発展させて研究計画を書きました。申請した研究は65,000人が対象となるので、青森県の健康課題に貢献できるのではと思っています。科研費に採択されたことは良かったのですが、これを学術論文にしていろんな分野で根拠として使ってもらえるようにしたいと思っています。教育にどう生かすかということは、やはり栄養学科に所属する管理栄養士なので、管理栄養士や学生が栄養学の根拠として活用してもらえる論文として出していきたいなと思っています。


”松尾講師”

(松尾)看護学科の松尾です。今日はお呼びいただいてありがとうございました。みなさん取るべくして採択されているので、私のように、まさに“当たった”人が出ていいのでしょうか。しかし、出さないことには採択されない訳ですから、まずは挑戦してみよう!という気持ちを持っていただくことで皆さんの背中を押すことになればと思い、お話させていただきます。
 科研費に応募しようと思った動機や経過を話します。前任校では、いつも、教育と研究と地域貢献は三本柱だと言われました。研究に関しても、科研費に申請したのかしないのか、その結果はどうだったのかが公表されていましたので、居心地の悪さもあり、ダメもとでも申請しなくっちゃ、という風土があったように思います。
 採択に当たって、皆さんのヒントになると思うこと。一つは、先程、小池先生が言ってくださったように、テーマ選択の重要性だと思います。私はずっと女性の健康支援をテーマに、修士課程のときから婦人科医の指導のもとで、女性の受診行動の調査や、子宮頸がんの予防活動をやってきました。頑張ってきた分、どうしてもそれにしがみついていたんですね。本学に着任した年も関連するテーマを出しましたが、見事に不採択でした。
 同時期、領域の細川教授が顧問を務めるサークルが、独居高齢者の閉じこもり予防を目的とした地区活動の中で、健康教育を行なっていまして、その効果を実証するということで、研究計画を立てました。はじめに本学のヘルスリテラシー促進研究の助成を頂いて、研究を開始しました。この結果をもとに、翌年科研費に出したところ、こちらは一発で採択されました。先ほど、福井先生が、小池先生を育てられたという話がありましたが、私も学内研究費の助成をいただくときに、細川先生に背中を押していただきましたし、倫理審査の際は、福井先生に大変時間をかけて見てもらいまして、「今通さないとアンケートとれないんだよね。」「頑張って。」と励ましていただきました。このようにしてヘルスリテラシー促進研究の実績ができたところで科研費に応募できたというのも強みだったのかなと思います。領域の応援、先輩や共同研究者からの助言、いろいろな支えがあって採択されたと思います。
 研究テーマは「地域で生活する独居高齢者を対象とした大学生によるヘルスリテラシー教育」ということで、大学の今進めている活動とも一致していますし、これを続けていければいいなと思っています。ですから、採択された時の気持ちは保健大に来てお役に立てて良かったという気持ちです。個人的には、学歴や業績がないために、元大学教員の父から「お前は、大学の教員なんて言えないよ。」と言われてくやしい思いをしていたので、父が生きてるうちに、研究者としての一歩を踏み出したことを伝えられて嬉しいです。
 科研費を獲得する意義ですが、今、独居高齢者の方あるいは民生委員の方、領域の教員やサークルの学生と一緒に活動していて、たくさんのご協力をいただいています。その際、「保健大で認められた研究、科研費を取った研究。」という説明を加えると、参加してくれる方も「自分のデータがみんなにまた還元されるのね。」と思ってくれます。また、今まで健康教育の際はデータ収集のためのアンケートを取って終わりだったのですが、「結果はどうだった?」「これ何かに載るの?」など関心を持っていただき、パートナーシップというか、教育的な意味でもアンケート場面が使えると気づくことができました。


(佐藤)やりがいが出てくるということですね。

(松尾)しゃべりすぎていませんか?(笑い)それではこの辺で。どうぞ、皆さんこれからもよろしくお願いします。(笑い)

”神成教授”

(神成)理学療法学科の神成です。基盤研究Cが採択されてびっくりというのが正直なところです。私は本学に赴任する前は、弘前大学で教鞭をとっていました。そこでは、パーキンソン病の薬がどうして効くかという薬理学的研究をしていました。それに関してはそれなりにやってきたという自信はありましたが、本学に来てから最初の二年間は苦労して同じような研究をやったんですが、無理ということで大幅にテーマを変えてリハビリに近い領域の研究を始めたのですが、当然のようにうまくいかなくて、しばらくだめだったんです。当然、科研費も採択されない・・・。科研費を申請することは当然だと思っていました。大学で研究者としているのであればだれでも出すのは当然っていうのは、弘前大学時代から、上司が言っていましたし、周囲もそう思っていました。申請しないほうがおかしいと思っていました。本学においても、申請しましたが、連戦連敗。これからはどうなるのだろうと思って苦労しました。あるとき、挑戦的萌芽研究というのに一度申請しました。これも参考になると思いますけど、この場合、研究業績は不要なんです。研究業績を評価の対象にしていなくて、アイデアだけの勝負なんですね。これならできるかもと思って、かなりいい加減な、できそうもないようなこと書いて、いいのかなと思って出したら、採択ですね。それで多少、運が向いてきたというか。それで三年やって、その後、一年のブランクがありましたが、ありがたいことに今年また基盤Cに採択されました。
 採択された理由は何かと考えると、二つあるんです。一つは、申請する領域を変えたということです。このことは、皆さんお話されていたのですが、私も、ずっと神経内科学で申請していました。当然、専門領域ですから。ところが、ここは全国から研究者が参入してくるので、研究者の層が厚いのです。そうすると、簡単に採択されないんですね。ここは領域を変えるべきだと思って、リハビリテーションに変えました。それが一つ功を奏したということですね。それからもう一つです。私は、八戸高専の先生と共同研究を行っています。共同研究のメリットというのは、いろいろあるのですが、ひとつのメリットとして、研究業績が増えるというのがあります。業績について皆さん苦労しませんか。自分一人ではそんなにない。そういうときに共同研究の論文も一緒に掲示できるので、業績が増えます。単純なことですが、これはばかになりません。もっとも、研究を共同でやることの意味自体が大きいですけれどもね。
 次に、研究計画書の書き方についてお話します。実際、申請書の項目にそって書くというのは一番大事ですが、もう一つは、「見やすく」書くということも大事です。一目見て読む気がしないと絶対アウトです。ですから、まず、読める、きれいに見える。つまり大きい字で書くということです。それからもう一つ、「審査員は専門家ではない」と思わなければなりません。自分がやろうと思っている研究について、全然知らない人が研究計画書を読むのですね。つまり、研究計画書の内容がわからない人にもわかるように書くことです。私もだいぶ苦労しました。下線とか、文字を太字にして、「ここだけは、最低読んでくださいよ。」というふうに作りました。それから字を大きくした。字を大きくするメリットってスペースをいっぱい使うということもあります。表や図をいっぱい入れる。これもスペースをいっぱい使える。紙面がスカスカは、まずアウトです。ある程度は埋めるという実践的なことです。


(佐藤)確かにそうですね。

(神成)そういうことで、研究計画書は、素人が読むんだと、それも、お年寄りで目が悪い人が読むんだということを考えて書いたほうがいいです・・・(笑い)

”上泉学長②”

(上泉)以前、科研費の審査員をしました!(笑い)

(神成)・・・私自身も小さい字を読むのは嫌ですので、そういうことに注意することが大事かなと思いました。以上です。

(佐藤)みなさんの思いのたけを聞いているだけで一日かかりそうです。8月から教員の研究談話会が開催されますので、この続きは、そこでもお話しいただければと思います。


2.科研費を申請するモチベーションとは?

(佐藤)科研費の申請に落ち続けていても、申請を続けられたことについて、モチベーションを維持する方法とか、どこからそのエネルギーが出てくるのかということを聞かせていただきたいと思います。

(上泉)最初に、不採択になったとき、これは何割の人たちが採択されているのだろうと思いました。三割かと知った時、じゃあ、最低3回ぐらいは申請しないとだめなんだろうと思いました。不採択のときって、すごくがっくりして気落ちするんですが、やっぱり、3回は出さないとだめだって思いつつ、それとやっぱり出さなければならないものだという気持ちで続けていたような気がしますね。

”全体②”

(神成)私自身は、自分は三割にも入らないのかと・・・。

(佐藤)ちょっと、ネガティブなところですか。

(神成)いやぁ、三割くらいには入れるだろうと思って、もう一回申請しようと、そういう気持ちがありますね。

(佐藤)気持ちを切り替えてですね。

(神成)一割というのは無理でしょうけど、三割ぐらいで入んないのかなと、そう思うときがありますね。

(佐藤)それが、ひとつの続けられる要因ですか。

(神成)ええ、まぁ。あとは、科研費が非常に分かりやすいステータスになりますね。自分の研究が、一応、国で認めてもらえているという面が大きいと思います。


3.科研費の研究計画調書の作成に、原著論文(研究業績)は必須か?

(佐藤)もう一つお伺いしたいことがあります。渡部先生は、先ほど原著論文を書いたことが、採択の良い要因になったんじゃないかとおっしゃっていました。一方、福井先生は、原著論文をあまりまとめなかったというお話でした。いかがでしょうか、研究計画調書の「研究業績」の欄を埋められる、埋められないというのは大きい問題だという経験はありますか。今後、「書く人も業績あって」のお話なのか、それとも、神成先生が仰ったように、挑戦的萌芽研究の研究種目のように、「まぁ、一発のホームランと一緒だから、当たったらすごいよね。」という考えもありますよね。皆さんの研究種目についての基本的なお考えをお聞かせ下さい。

(神成)何年か前に、弘前大学から先生をお招きして科研費のレクチャーをしていただいたことがありますよね。科研費の取り方というタイトルで、そのとき非常に参考になったんです。というのが、挑戦的萌芽研究の審査の仕方というものがあって、審査員の中で全員の合意でなくても、一部の先生が非常にいいと思うといった課題については、最後まで残るというんですよ。だから、ある一部の人にだけでもすごくアピールする書き方でもいいというお話でした。研究業績があまり無いと思っている人は、挑戦的萌芽研究でやってみるという手はあります。

(佐藤)ひとつのやり方ですね。

(神成)ええ。それと昔より挑戦的萌芽研究は採択率が高くなったって。昔はすごく低かったんですね。

(佐藤)そうですね。採択率が一割ちょっとでしたね。

(神成)一割ちょっとだったのが、今は三割です。アイデアで勝負ですから。研究業績があまり無くて困っているという人は、是非、挑戦的萌芽研究に挑戦ですね。

(佐藤)それで「はずみをつけていく」ということですか。他の方はいかがでしょうか。

(上泉)私が、審査員をやったときのことです。医学は、結構、細目が多いのですが、看護学の細目って、3つか4つしかないんですよね。だから、審査をする人は、基礎なら基礎でもさまざまな人が、さらに、さまざまな研究をしている人たちが、その細目に応募してきます。ですから、まずは、研究計画調書の文章がすんなり入ってくるかどうかっていうところがたいへん大事です。
 自分の専門じゃないので、専門用語とかちょっと引っかかるところがあるですが、専門用語を知らないにしても、その文章が何を問うているのかっていうのは、やっぱり、文章力ですよね。それが無いと審査員として、読み進んでいく気にならない。何回読んでも、読んでも、何を言っているのかが分からないというものは、専門用語を知らないというだけではないと思います。簡潔な文章でもいい。難しく言わなくて、簡潔な文章でいいので、ピシッと伝わるような文章がいいと思いました。

(佐藤)ほかのみなさんのご意見はいかがですか。

(松尾)お聞きしたいのですが、論文を書く機会(時間)はありますか。

”全体③”

(小池)私の場合、前回採択された研究課題とすごく繋がりがありました。以前の研究が1本原著論文となりました。もう1本の原著論文を英語で書いているのですが、それは申請に間に合わず、1本でも研究テーマに関係する原著論文が研究業績としてあると、次の研究テーマでも採択されやすいのかなと思います。

(佐藤)次に繋がるという意味で、ですね。

(小池)ええ。今回の研究テーマのように、これまでのテーマの発展的な内容なんだな、ということがわかってもらえるような研究業績があれば、採択の採否において違うと思います。

(佐藤)科研費にひとつ採択されると、研究業績を作ろうという気持ちが出て、その分業績が出るとまた採択されるという。「正の連鎖」に繋がると言えるのでしょう。

(小池)そのコメントでお願いします。(笑い)

(熊谷)私の場合、どうしたら、採択されるかを採択された先生方に聞いて回りました。若手研究に申請した方に、研究業績欄をどのように書いているのですかと尋ねました。規定のとおり論文だけしか書いていない先生と、そんなことをやっていたら「スカスカ」で見栄えが悪いから学会発表も含めて、全部書いた方が採択される、とにかく「埋めなさい」と言う先生がおりました。学会発表は、書いてはいけないことになっていますが、とにかく埋めたら採択されました。過去に科研費の審査員をされた先生もいらっしゃって、審査員の誰かが高得点をつけたら採択されるからと言われました。その高得点をとるには、中学生でも分かる内容にしなさいっていうことも言われました。「科研費獲得の方法とコツ」という本では、論文の業績はとにかく埋めないと、この人にお金を投資しても論文は出ないと見られるため、とにかく紙面を埋めた方がいいと書いてあり、とにかく業績欄が埋まるように論文を増やしていきました。

”全体③”

(神成)確かにそうですよ。まずは、研究業績があるかというのだけパっと見て、おおよそ研究業績欄が埋まっているかと見ることが第一のようですよ。ただ、「ん?」と思って詳しく見たときに「なんだこりゃ?」ってなることもあるのですけど・・・。なかなかそこまで見る先生も多くないだろうと、ちょっとずるい考えですけどね。
 八戸高専と一緒に共同研究をやっていて、そこの先生から八戸高専の学長の本を薦められたんですよ。「科研費の採り方」という本で、これは参考になりました。そのことを高専に行ったときに共同研究者に話したら「学長に伝えておきます。」っていっていました。(笑い)

(松尾)ひとついいですか。研究業績についてですが、福井先生は、先ほど、論文を書くには自分で時間を作らなくちゃいけないということで仰っていたんですけど、私はここに就職してから、ここで書き始めてここで投稿したものがないんですね。大学院で研究した内容のものとか、前任校から持ってきた内容のものは執筆してきたのですが、本学では、書けませんでした。そこで、提案なのですが、研究業績を増やすことは、論文を投稿するということです。こちらでは学会もありますし、その機会があるので、いつも研究計画書を書くだけではなく、論文を書く練習もして習慣化していくというのはどうでしょうか。


4.論文をまとめ、投稿論文を書くためには?

(佐藤)そうですね。そういう論文を書く習慣ですとか、弘前大学のように科研費を出すという風土というか、そういうことを本学においても、根付かせるために何か提案はありますかね。一人ひとりの問題だからいいっていう考えもありますが、やっぱり雰囲気が変わらないと、と思います。そういうことを根付かせるようなアイデアはありますか。

”全体④”

(福井)研究計画書や論文をまとめる時間っていうのを自分で作らなければいけないのかなと思って、自分なりに水曜日の午前中はこれに充てようって決めました。しかし、大学業務があったり、打ち合わせが急に入ってきたりとかで、なかなかできませんでした。やっぱり無理かな、と思いつつも今日まで来ています。ある大学では、大学で研修日というのを一日設けているそうです。だから毎週金曜日とか毎週月曜日だとかは、その先生は「研修日で不在」ということで時間を確保して、外の講演に行ったりとか、研究をまとめる時間にしたりとか、そういうことを大学自体でやっているということを聞いたことがあります。自分の中で研修日を決めても限界があるので、そういう体制作りが可能であるのならば、考えていただければいいのかなと思います。

(上泉)研修日はいつでも取れますし、裁量労働制だし。さらに、自主研修も取れますので、計画的に進めるといいんじゃないでしょうかね。

(松尾)勇気をもってドアに「研修日です」の張り紙をかけとくとか。(笑い)

(佐藤)それもひとつの案としては面白いですね。

(松尾)研究を一生懸命やっていれば、教育がおろそかになるということではないはずです。「よく書く時間があるね。」とか、「こんな忙しい中で書けるっていうことは何か削っているの?」と周囲から言われないように、外に研究にいくという雰囲気があればいいと思います。私の領域は、教授もみな同じ活動をしているので分かってくれるし、「大学のためだからやって。」と、応援していただけます。そういうことが、もし、学科の領域の中でずれていたりするとやりにくいかと思います。雰囲気を作っていくのも研究者の責任ということになると、個々の研究者にはきついかなと思いました。

(佐藤)前任校の弘前大学や北海道大学では、そのような雰囲気あったということは、どうしてなのでしょうか。

(渡部)科研費を出さなければ、「クビ」だからですよね。「肩たたき」ですよね。

(神成)医学部はちょっと別かもしませんけど。医学部は所属している研究者が多いので、何かやっていないと、すぐ「クビ」になります。「研究をやらない人は、もう知らないよ。」というような雰囲気です。ですから、やっていない人はほとんど去るので、大学に籍を置いている先生方は、大学にいるからには研究をやっている人しかいない(残らない)ということです。厳しいといえば、厳しいですね。


5.研究費について

”全体⑤”

(上泉)研究費の配分については、厳しいですね。研究を行っている人にもっと研究費が配分されるような方法もあります。研究の内容によって機械を購入しなければならない研究室、調査などでアルバイトをお願いすることが必要な研究室もありますからね。

(佐藤)研究費が削られるとしたらどうなるのでしょう。

(上泉)研究費が減った分もあるんだけど、減額されたものを成果配分に回している大学もあるんですよね。しかし、それはあまり研究の数を増やすことに繋がっていないようです。どうしたらいいのでしょうね。

(佐藤)例えば、研究費をゼロにして、先生方にご自分で研究費を取ってきて下さいということになったらどうなるのでしょう。「もう、研究はやめた。」となるのでしょうかね。(笑い)

(上泉)研究費の配分は保障しないとね。

(小池)科研費に応募すれば、現状の個人研究費が支給されるという方向に向いている大学があると聞いたことがあります。研究費がほしい人は、毎年科研費の申請書を書きます。現状を維持するためには、最低限、科研費に応募することにすると厳しいですか。

(渡部)いいんじゃないですかね。科研費に申請しないのであれば、あまり研究する気がないと思います。

”全体⑤”

(神成)去年の私もそうでしたけど、科研費に出して、何も取れなくても、学内の特別研究費で、何とか研究をつなげることができて助かりましたから。

(渡部)私もそうでした。

(松尾)学内の研究費がいただけたので、よかったです。

(熊谷)科研費を出しているのなら”科研費を出しました”のプラスの評価が必要だろうと思います。忙しい中でも申請している教員としていない教員で今は何の差もないので、申請したら研究費がアップするなどがいいのかなと私は思ってます。

(渡部)採択されなくても、研究費があっていろんなところから2口も3口ももらってる人いますもんね。

(熊谷)私はずっと10年近く採択されず、若手は無理だと思いました。今年、青森学術文化振興財団の助成金を獲得して「次の科研費を獲得につなげよう。」と思って申請したところ、2つとも採択されました。やはり、何の助成であっても申請に対して評価があればよいと思います。

(神成)ほんとにそうですよね。科研費の採否は、運の要素が大きいのでそれを評価に含めるとまずいとは思いますが、申請するということは、それなりの努力でできます。

(上泉)出したことを評価すると・・・。

(渡部)やはり、科研費は申請しなくちゃだめですよ。

(上泉)個人研究費は、科研費の計画書を申請した人にあげるという考えもあります。

(神成)いいのではないでしょうか。

(福井)先ほど学長が仰ってたんですけど、その時期、その時期というのがあると思います。つまり、教育にかける時間とかを要して、なかなか計画書を書けない人もいらっしゃいますよね。熊谷先生が仰ったみたいに、書けなかった人の理由や背景が分からないので、ここでは一方的には言えないかもしれませんが・・・。

(上泉)それは、研究をしないわけだから研究費いらないということになるのかもしれません。研究するだけではなく、自分自身をブラッシュアップのためにも個人研究費を使っているので、ある程度は、研究費の支給を保障した方がいいと思います。


6.研究を通した将来の夢

(佐藤)この件はまた、別の形でお話ししたいので、別の機会によろしくお願いします。最後に、今回、採択された科研費をもとに、将来の研究にいろいろ夢を持っていると思いますが、その夢を一言で語っていただけませんか。

(神成)私は八戸高専と一緒にやっている以上、成果の商品化ができればと思っています。特許の問題とかまだいろいろありますが、最終的な目標として掲げています。

(松尾)私は、健康教育プログラムの構築ですので、みんなが喜べるもの、結果を社会還元できるように成果を出していきたいと思います。

(熊谷)私は、青森県から根拠(エビデンス)を発信したいと思っています。短命県であることもそうですが、他県民と青森県民は違います。ビッグデータを活かして社会や特に青森県民に貢献するようにしていきたいと思います。

(小池)「こつこつ、たんたんと」ということで、テーマは何であれ、いただいたからには実行していく。「こつこつ、たんたんと」やっていくだけです。

(福井)私は、看護職員と患者さんへの還元です。今まで、記述研究が多く、こういう結果でしたっていうものが多かったのですが、今度は質向上に繋がって、患者さんに還元できるような、そういう成果を出していきたいと思っています。

(渡部)皆さんが言っていることは、やはり、研究者としての社会に貢献することですし、そのとおりだと思います。私も同じく、青森に限らず、自分のエビデンスを出せる立場になれればいいかなと思います。そして、それが日本の健康に繋がればと思います。

(佐藤)本日は、本当にありがとうございました。今回の科研費をもとに、皆さんの今後の研究がうまくいき、期待する成果がでてくることをお祈りいたします。これで終わりたいと思います。

”全体⑥”

出席者一覧

氏名
学長 上泉 和子
研究推進・知的財産センター長 佐藤 伸
理学療法学科 教授 渡部 一郎
理学療法学科 教授 神成 一哉
看護学科 准教授 福井 幸子
看護学科 講師 松尾 泉
看護学科 講師 小池 祥太郎
栄養学科 助教 熊谷 貴子
研究開発科委員(看護学科 准教授) 齋藤 良子
研究開発科委員(栄養学科 講師) 井澤 弘美

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