令和3年度入学式式辞

令和3年度入学式式辞

青森ではこの冬、例年になく雪と厳しい寒さに見舞われました。厳しい冬にあってはなおさら春の訪れを待ち焦がれるものです。その春を待つ気持ちさながら、ここに皆さんをお迎えすることを心待ちにしていました。この一年は新型コロナウイルスの挑戦に立ち向かいながら、何がしかの困難の中で新しい日常を獲得すべく努力してきたことと思います。コロナ禍の中でも多くの制約を乗り越え、難関を突破し、たいへん厳しい保健医療福祉の世界に飛び込んできてくれたことに、皆さんの勇気をたたえるとともに感謝の念をこめて心から歓迎いたします。青森県立保健大学健康科学部新入生229名及び編入生1名の計230名、並びに大学院健康科学研究科博士前期課程生12名、博士後期課程生5名、計247名の新入生の皆さん、ご入学、まことにおめでとうございます。教職員を代表して、皆さんの門出を祝って一言ご挨拶申し上げます。

 

さて、1年前の2020年4月7日入学式の日、我が国は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言を行い、4月16日には対象が全国に拡大されました。この出来事は私たちの生活を一変させ、“New Normal 新しい生活様式”をもたらしました。マスクをかけた少人数の人々が集い、また行きかう景色にも違和感がなくなりました。あれから1年、私たちはこれまで経験したことのない、ウイルスによる大きな挑戦を受け、いまだそのウイルスとの戦いは終息をみていません。

人間がいまだかつて経験したことのないこと、十分に解明されていないもの、知識として成り立っていないもの、未知なるものがまだまだ身近にあることを思い知らされました。しかしながら、多くの科学者達が未知なるウイルスとリスクに果敢に臨み治療やワクチンの開発に挑んできたことを私たちは知っています。皆さんは保健医療福祉の専門職をめざし、たくさんのことを学ぼうと思って大学を目指してこられたと思います。皆さんが学ぶべき知識はたしかに、膨大にあります。しかし、大学で学ぶべき大切なことは、解らないこと、未知なるものを探求する姿勢とスキルを身に着けることだと思います。

COVID-19に感染した患者さんや施設の利用者の方たちは、面会が制限され、最期の時すら家族とともに過ごすことができなかった方たちもいました。感染防御の観点からの制約であることはわかっていても、苦しむ当事者や家族がいることを専門職は看過することはできませんでした。感染がどうなっていくのか、どう防御すればいいのか、解らない中でも家族の絆をつなぎとめようと、モバイルやスマートフォンを使いながら家族と面談できるように工夫し、家族の声を届けようとしました。皆さんに学んでほしいこと、それは解らないことをあきらめない、解らないなかでも、答えがないなかでも、自分が何をするか考え、行動に移すことこそ学んでほしいことです。

また、保健医療福祉の専門職をはじめとする関係者方々が、感染者を守るために一心に尽力してきた姿も目にしてきました。これは自分を犠牲にしてつくすことではありません。フローレンスナイチンゲールは、ナースは感染に恐れず立ち向かう、十分な防御をしながらといっていますが、すべての保健医療福祉の専門職に通じる考え方です。本学では、「正しく怖れる」という言葉をキーワードにCOVID-19に向かい合ってきました。この言葉は、物理学者であり文筆家であった寺田虎彦が、浅間山の噴火に際して、「怖がらなさ過ぎたり、こわがりすぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなか難しい」といったことから、東日本大震災における原発事故の時によく引用され、リスクについてよく知り、状況をよく理解して対応するといった意味で「正しく怖れる」という言葉で用いられました。

「正しく恐れる」ことを忘れずに、この時期を乗り越えてきたことを糧とし、不透明な未来と変化にしなやかに応える力を身につけてほしいと願っています。高校時代、心に残るイベントができなかったこともあったかと思います。 “New Normal 新しい生活様式”がどうなるかもわかりません。しかし、想像の翼を広げて、何かを生み出していく心躍らせるような大学生活の営みにぜひ挑戦してください。

 

保健医療福祉の専門職は、まずますその存在感が高まっています。大学院で研究者の道をスタートする皆さんの知識の創造にも多いに期待が高まります。あなた方を必要とする人々のために、3つの“H”すなわち、Head、Hand、Heartをもって皆さんの力を注いでください。

 

令和3年4月6日

青森県立保健大学学長 上泉和子

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