平成29年度卒業証書・学位記授与式式辞

皆さん、ご卒業おめでとうございます。青森県立保健大学は、本日ここに、平成29年度の学部卒業生225名、博士前期課程生7名、博士後期課程生2名に、卒業証書・学位記を授与いたしました。本学の教職員を代表して、心からお祝い申し上げます。また、今日まで皆さんを慈しみ育み、成長を支えてこられたご家族の皆様におかれましてはさぞやお喜びのことと存じます。まことにおめでとうございます。また、設置者であります青森県知事をはじめ、ご臨席賜りましたご来賓の皆様、ご指導ご支援いただきました方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。本学は来年20周年を迎えますが、本学が送り出した卒業生は、皆さんを含め学部卒業生3,093人、大学院生222人、となりました。

 

さて、卒業というと、「社会に出るのだから」とか、「社会人になるのだから」とよく言われます。私も確かに卒業していく諸君に向けて、同じようなことを言ってきたことを記憶しています。鷲田清一は、「この文句、たしかに卒業式でよく聞かされてきた。ということはしかし、それまでは社会のなかにいなかったということなのか。」と問いかけます。そして、社会に出るという言葉が意味するところは、「労働にたずさわる前の段階から、労働する成年、そして労働という形での公的生活からリタイアしたあとの老年と、労働を始めるか辞めるかを境に、人生がまっすぐな線のように思い浮かべるくせが根深い」といいます。さらに、人生が線であるということは、「現在というものが、別の時間、これからくるであろう未来の時間のためにあるという価値観をもたらす。」といいます。

 

みなさんはどのように考えますか? 学生時代は働く時代のために存在するのでしょうか。皆さんの多くは大学で学んだ専門科目は職業に直結しますので、職場にでると大学で学んだことを問われる場面も多々あることでしょう。時には、大学で何を学んできたの?という厳しい先輩の言葉をもらうこともあるかと思います。このご時世、皆さんは否応なしに、目標をもって、目標に向かって、目標を達成するように、そして自己実現を目指し、等々・・。前をみつめ、今の自分を振り返ることが求められるでしょう。しかし、鷲田氏の言葉を借りれば、「現在を不在の未来の犠牲にするのではなく、<いま>というこのときをこそ、他者たちとのあいだで「ともに生きてある」という感覚の中で時めかせ」てもらいたい、と皆さんに伝えたいと思います。

 

本学はヒューマンケアを提供できる人材の育成を目標に掲げています。人をケアするとは、心の痛みを感じとる思いやりと温かさを持ち寄り添うことです。人に寄り添うとは、今、この時をともに生きて在るということです。あなたのケアを必要としている人から目を背けないでください。あなたの耳を貸しましょう。“何かお手つだいしましょうか”と、あなたの口から一言、言ってください。このことが人々の健やかさに通ずると信じています。

 

ところで、“健やか”という言葉ですが、漢字に注目してみると、“健”は人と建から成り立っていますが、建は手で筆を立てることをさし、のびやかに立つさま、あるいは自らが立ち上がるという意味があるそうです。しっかりと立つ、すなわち倒れない、転じて心身が丈夫なことを表すようになったそうです。また、人を建てると書くことから人としてしっかりしている、人をしっかりとさせる(人をたてる)という意味合いを持つと説明されています。健やかであることとは、自分がしっかりとしているだけではなく、しっかりしているからこそ、人を建てる行動ができることを意味しているのではないでしょうか。まさに、ヒューマンケアに通ずる“健”です。

 

本学が求めることのもう一つは、科学です。昨年から卒業式、学位授与式にアカデミックガウンを着用することといたしました。これは、卒業生の皆さんに、学問を修め、学位を取得することへの自覚と責任をもってほしいと導入したものです。ウィリアム・オスラーがいうところの「Practice is an art, based on science.」、すなわち学問にうらうちされたケア提供者になってほしいと思っています。

さきほど、角帽についたタッセルを右から左へと移しました。そして卒業証書・学位記を手にした皆さんは、学士の学位を持った一人として、今日ここに旅立つことを意味しています。タッセルの色は学科のシンボルカラーを用いています。皆さんの専門分野にどうぞ誇りを持って、ヒューマンケアを必要としている人たちに尽くしていってほしいと願っています。

 

大学院博士前期課程、博士後期課程の修了生の皆さんは、ガウンにフードを着用しています。そして紫のカラーは大学院のシンボルカラーです。また、タッセルはすでに学士の学位を持っているということで、最初から左側にあります。研究者、教育者として、そして保健医療福祉のリーディングパーソンとして貢献していくことを心から期待しています。

 

本学の校歌である“新たな未来へ”は、「さあ、今始まる 終わらない旅路 「希望」へと向かう心は 新しい日を創る」という歌詞から始まります。未来へむけて旅立つために、「希望」という心があれば新しい日を創っていくことができると詩っています。そして最期は、「どんな時もずっと 忘れない 出逢えた奇跡を」と結んでいます。いまここにあることを大切に、みなさんが今この時をひとと共にあり、希望とときめきをもって未来に進んでいくことを、こころから応援しています。

 

平成30年3月7日

公立大学法人 青森県立保健大学

理事長・学長 上泉和子

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